「新しい生活様式」という事で、自粛も解除され、そろそろライブ活動も再開出来そうな状況になってきた。自粛期間中から、"COVID-19の副産物"として、料理を作ることに目覚めた。もうひとつの副産物は、酒の量が増えたという事だが。
YouTubeの動画レシピを色々観ていると、自分の今までの経験論で紹介するものが多く、僕のような全くの初心者で理屈っぽい人間にとっては、不適切で不親切なものがほとんどだった。もっとロジカルに説明してくれるものはないかと探したところ、"こじまぽん助"という料理研究家を見付けた。彼は、分子調理学という観点からロジカルに説明をしてくれ、さらにシンプルな食材を使い、料理法により素材の旨味を引き出す。彼が説明する「メイラード反応」や「カラメル化」の話は興味深く、特にフランス料理の「エチュベ」というテクニックが得意で、それを使った"カレー"や"豚汁"や"ポトフ"は旨味があり、僕の口にベストマッチだった。しかし、彼の方法でハンバーグも作ってみたが、どうも僕の目指している味とは少し違う。そして、色々な人のレシピを探してみると、人によって作り方が全く違うのに驚いた。
1. 具材に玉葱を入れる?(入れるなら、炒める v.s. 生)
2. パン粉は?(そのまま v.s. 牛乳に浸す)
3. 肉の捏ね方は?(しっかりv.s.
簡単に)
4. 焼き方?(強火 v.s. 弱火)
5. ジューシーさとは?(切って肉汁 v.s.
噛んで肉汁)
など、多くの疑問が湧いてくる。その一方でそれをロジカルに説明している動画レシピが全くない。
科学論文を書く時には、どこまでが解っていて(既存の論文を引用し)、どこがノイエス(新しい知見)かを知ることは最低限必要である。僕は20年余り大学病院に勤務していたためか、そんな風に考える習慣があるのだと思う。
そして、遂に、『男のハンバーグ道/ 土屋敦 日経プレミアシリーズ』という本を探し出した!これを見付けた瞬間、こんな人(男)がこの世の中に存在すること自体が、本当に嬉しくてたまらなかった。なんと言っても、題名が最高にいい!この本では、僕の全ての疑問点を、過去の料理法を顧みながら、実証してくれている。科学的なエビデンスに基づき使うべき食材を厳選し、料理法を選択し、至高のハンバーグレシピを作るために、本丸1冊分紙面を割いているのだ。無駄と思われる部分にこだわれる事こそが最高の贅沢であり、真の男の道なのだ!
詳細は本をご参照いただきたいが、これを読みながら、僕の頭の中を考えが廻った...
「これって、将に"引き算のレシピ"やな!?」
「そう言えば、ここ数年前からの、僕の音楽に対する考えと全く同じやぞ!」
「そうか!?これは道なのだ!」と。
僕の父が他界してから、かれこれもう10年になる。彼はずっと剣道をしており、最終的には七段範士だった。日曜日になると、近所にある刑務所の道場で稽古をして、そこの"日曜会"の会長までしていた。挙句の果てには、家に小さな道場まで作ってしまった。僕も父の影響で、小学校低学年の頃から剣道を始めて、一応二段を持っている(兄は五段)。今思うと、僕のこの凝り性な性格の形成は、この頃から始まっていたように思う。
父はいつも僕にこう言っていた。
「いつも、ドーンと面だけを打っていろ!」
「それで、相手に小手や銅を打たれて負けてもいい。いつかは、自分が打つ面が先に当たるようになる。」
「試合で負けても全然構わない。内容で相手に勝っていればそれでいい。」
僕は、中学時代に音楽を知ってしまったために、だんだん剣道への興味は薄れたとはいえ、一応大学時代まで続けていた。その間、試合に出場しても、ほとんど1回戦で敗退だった。でもこれこそが、いわゆる"スポーツ"と "道"の違いなのだ。
父は、剣道の名勝負のほとんどを、最初は無声の8mmから始まり最後はビデオテープに収めていた。稽古の後、剣道仲間や後輩達と近所で酒を飲んで食事をして、家に帰って皆でその動画を観ながら雑談するのが好きだった。ある時、僕も家にいたので、日本最高峰の二人(名前は忘れたが、おそらく八段と九段との試合ではなかっただろうか)の試合を一緒に観たことがある。もちろん、お二人とも枯れている(70~80才代位か?)。互いの竹刀の剣先に緊張が伝わる。掛け声も大声ではなく、気が籠り絞ったような声が、かすかに聞こえる。いつ打つのかと目を凝らして見ていたが、なかなか打たない。そして、徐々に間合いが詰まり、もう一度仕切り直しとなる。それが何度か繰り返され、結局、最後まで打たずに終了した。父は「あそこで、打った方が負けなんや。」と、誇らし気に言った。僕は、半分笑いをこらえながら、なんとなくその意味が理解出来たように思った。
今思えば、これこそが『引き算の美学』だったのではないだろうか!
その後、僕は音楽へどんどん興味が向かい、Black MusicのRootsをいろいろ紐解きながら、聴いたり歌ったりしていた。そして、このProfileにも書いているが、『Moments from this theatre / Dan Penn & Spooner Oldham(1999)』を初めて聴いた時、いらないものを全てそぎ落とし素材を大切にする、その『引き算の美学』にノックアウトされたのだ。
そう考えると、やっぱり「蛙の子は蛙」なんだなあとつくづく思う、今日この頃である。
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